口内炎は、頬の内側や唇など、口の中の様々な場所にできますが、中でも特に厄介で、強い痛みを感じやすいのが「舌の裏側」にできる口内炎です。舌の裏は、普段あまり意識しない場所ですが、一度口内炎ができると、話す、食べる、唾を飲み込むといった、日常の何気ない動作のたびに激痛が走り、生活の質(QOL)を著しく低下させます。では、なぜ、こんなデリケートな場所に口内炎ができてしまうのでしょうか。その原因は、一つではなく、いくつかの要因が複雑に絡み合っていることがほとんどです。まず、最も直接的で分かりやすい原因が、「物理的な刺激」による傷です。舌の裏の粘膜は非常に薄く、デリケートなため、些細なことで簡単に傷ついてしまいます。食事中にうっかり舌の裏を歯で噛んでしまったり、硬い食べ物(せんべいやナッツなど)や、魚の骨が刺さったりすることでできた小さな傷が、口内炎の始まりとなります。また、歯並びが悪く、下の歯が内側に傾いていたり、歯の先端が尖っていたりすると、無意識のうちに舌の裏を慢性的に刺激し、口内炎ができやすい環境を作ってしまいます。合わなくなった入れ歯や、矯正器具の金具が当たることも、同様の原因となります。次に、大きな原因として挙げられるのが、「体の免疫力の低下」です。仕事の疲れや、睡眠不足、精神的なストレスが溜まると、体の抵抗力が落ち、口の中の粘膜の新陳代謝も滞りがちになります。粘膜が弱っている状態では、普段なら何でもないような僅かな刺激でも傷つきやすくなり、また、一度できた傷の治りも遅くなります。口の中の常在菌のバランスも崩れやすくなり、小さな傷から細菌が侵入し、炎症を悪化させてしまうのです。さらに、「栄養不足」も、舌の裏の口内炎の重要な引き金となります。特に、皮膚や粘膜の健康を維持するために不可欠な「ビタミンB群(B2, B6など)」や、鉄分、亜鉛といった栄養素が不足すると、粘膜が荒れやすくなり、口内炎が頻発するようになります。このように、舌の裏の口内炎は、物理的な傷という「きっかけ」に、免疫力の低下や栄養不足といった「体からのSOSサイン」が重なった時に、発生しやすくなるのです。