仕事の締め切りが近づいてきたり、人間関係で悩んだりすると、決まって舌の裏に痛い口内炎ができる。そんな経験はありませんか。この現象は、気のせいではなく、「ストレス」と口内炎の発症には、科学的にも証明された、非常に深い関係があるのです。では、なぜ精神的なストレスが、舌の裏という物理的な場所に、炎症を引き起こしてしまうのでしょうか。そのメカニズムは、主に「免疫力の低下」と「自律神経の乱れ」という二つの側面から説明できます。まず、私たちが強いストレスを感じると、体はそれに対抗するために、副腎皮質から「コルチゾール」というホルモンを分泌します。コルチゾールは、短期的には炎症を抑えたり、エネルギーを生み出したりする重要なホルモンですが、慢性的なストレスによって過剰に分泌され続けると、免疫システム全体の働きを抑制してしまうという副作用を持っています。免疫力が低下すると、口の中に常に存在している細菌やウイルスに対する抵抗力が弱まります。その結果、普段なら何でもないような小さな傷からでも細菌が侵入しやすくなったり、ヘルペスウイルスが再活性化したりして、口内炎が発症しやすくなるのです。次に、「自律神経の乱れ」も大きく関与しています。ストレスは、体を活動的にする「交感神経」と、リラックスさせる「副交感神経」からなる自律神経のバランスを崩します。ストレス状態では、交感神経が優位になり、血管が収縮します。これにより、口の中の粘膜への血流が悪化し、唾液の分泌量も減少します。唾液には、口の中を洗い流し、細菌の増殖を抑える「自浄作用」や「抗菌作用」があります。その唾液が減少し、血行不良で粘膜に十分な栄養が届かなくなると、粘膜の新陳代謝が滞り、荒れやすく、傷つきやすい状態になってしまうのです。さらに、ストレスは、粘膜の健康維持に不可欠なビタミンB群やビタミンCを、通常よりも多く消費してしまいます。これも、口内炎ができやすくなる一因です。このように、ストレスは、免疫、血流、唾液、栄養という、口内環境を守るためのあらゆる防御システムを弱体化させます。舌の裏に繰り返しできる口内炎は、あなたの心が発している「少し休んで」というSOSサインかもしれません。