抜歯後の合併症として、最も恐れられているのが「ドライソケット」です。抜歯した穴を保護するかさぶた(血餅)が剥がれてしまい、骨が剥き出しになることで、耐え難い激痛が長期間続く、非常に辛い状態です。このドライソケットを予防するためには、抜歯後の過ごし方、特に「食事」の摂り方が極めて重要になります。血餅を守り育てるための、食事における具体的な注意点を解説します。ドライソケットの直接的な原因は、血餅が失われることです。食事に関連する行為で、血餅を失うリスクが高いのは、「強い水流」と「口の中の圧力変化(陰圧)」です。まず、抜歯後24〜48時間は、血餅が非常にデリケートで剥がれやすい状態です。この期間は、食事の後に、口の中の食べカスを洗い流そうと、勢いよく「ブクブクうがい」をするのは絶対にやめてください。せっかくできかけた血餅が、水圧で簡単に洗い流されてしまいます。口をゆすぎたい場合は、水を口に含み、頭をゆっくり傾けて、そっと吐き出す程度に留めましょう。次に、口の中に陰圧をかける行為も厳禁です。代表的なのが、「ストローで飲み物を吸う」ことです。吸い込む力によって、抜歯窩の血餅が、まるで掃除機で吸い出されるように、スポンと抜け落ちてしまう危険性があります。同様に、「麺類(ラーメン、そば、うどんなど)をすする」行為も、強い吸引力を生じさせます。抜歯後は、麺類を食べる際は、すすらずに、レンゲなどを使って、静かに口に運ぶようにしましょう。また、硬い食べ物や、ポテトチップスのように尖った食べ物も避けるべきです。これらの破片が、デリケートな血餅を物理的に傷つけ、剥がしてしまう可能性があります。食事の内容は、前述したような、柔らかく、刺激の少ないものを選ぶことが基本です。そして、食事の際は、抜歯した側とは反対側の歯で、ゆっくりと優しく噛むことを徹底してください。これらの注意事項は、ほんの数日間の我慢です。食事のたびに少しだけ神経を使うことで、あの地獄のようなドライソケットの痛みを回避できると考えれば、決して難しいことではないはずです。