ある30代の男性患者が、右下の歯茎の付け根に白いできものができたことを理由に来院されました。彼はそれを数ヶ月前から繰り返す「治りにくい口内炎」だと思い込み、市販の塗り薬を使い続けていましたが、一旦は小さくなってもすぐにまた同じ場所に白い膨らみが現れることに不安を覚え、ようやく受診に至ったのです。診察の結果、その白いできものは一般的なアフタ性口内炎とは異なる特徴を持っていました。表面がえぐれているのではなく、むしろ小さく盛り上がっており、周囲を押すと白い膿のようなものが出てくる状態でした。レントゲン撮影を行って詳細に調査したところ、その原因は口内炎ではなく、過去に治療した歯の根っこの先に溜まった細菌の塊、すなわち根尖性歯周炎であることが判明しました。歯の内部で繁殖した細菌が膿を作り出し、その逃げ場を求めて顎の骨を溶かし、歯茎の付け根付近に「フィステル」と呼ばれる出口を作っていたのです。このため、どんなに口内炎の薬を塗っても根本的な解決にはならず、むしろ内部の感染は刻一刻と進行していました。男性は「まさか痛みのない白い点が、歯の根っこの問題だとは思わなかった」と驚いていましたが、これは臨床現場では決して珍しくない事例です。一般的な白い口内炎であれば、痛みとともに1週間から10日程度で自然に消失しますが、このフィステルの場合は痛みがほとんどないことも多く、膨らんだり萎んだりを繰り返すのが大きな特徴です。この患者さんの場合は、すぐに根管治療を再開し、内部の洗浄と消毒を徹底することで、数週間後には歯茎の白いできものも綺麗に消えてなくなりました。このように、歯茎の付け根に現れる「白いもの」には、粘膜のトラブルだけでなく、歯そのものの疾患が隠れているケースが多々あります。自己判断で口内炎だと決めつけて放置すると、最悪の場合、原因となっている歯を抜かなければならなくなることもあります。自分の口の中に現れた異変が、2週間以上続いたり、形が変わったり、あるいは定期的に再発したりする場合は、それは身体が発している「もっと深い場所に問題がある」というサインかもしれません。早期の歯科受診こそが、大切な自分の歯を守るための唯一の防衛策であることを、この事例は強く物語っています。