患者さんにとって大切なインフォームドコンセントですが、実は医療者側にとっても、その技量が問われる非常に重要な場面です。単に専門的な情報を一方的に話すだけなら、それほど難しいことではないかもしれません。しかし、インフォームドコンセントの本当の目的は、患者さんがその情報を正しく理解し、納得して自己決定できるよう手助けをすることにあります。これは、想像以上に高度なコミュニケーション能力を必要とします。例えるなら、外国語の通訳のような役割に近いかもしれません。医師は、医学という専門用語で書かれた難解な文書を、患者さん一人ひとりの理解度や背景に合わせて、できる限り平易な日常の言葉に「翻訳」して伝えなければなりません。その際、ただ事実を伝えるだけでなく、患者さんが何に不安を感じているのか、何を最も大切にしたいのかを表情や言葉の端々から汲み取り、対話を重ねていく必要があります。ある患者さんにとっては、少しでも早く社会復帰できることが最優先かもしれませんし、別の患者さんにとっては、副作用が少なく、穏やかに過ごせることが何より重要かもしれません。そうした個々の価値観を尊重し、最適な選択肢を一緒に探していくプロセスこそが、真のインフォームド-ドコンセントです。時間が限られた診察の中で、これを完璧に行うのは決して簡単なことではありません。しかし、多くの医療者は、患者さんとの信頼関係を築き、共に病気に立ち向かうパートナーとなるために、日々この対話の技術を磨いているのです。